小田原地獄紀行
1月1日（金） 元旦
さて、いよいよ1999年である。例の大予言が今から楽しみで某オカルト雑誌を秋頃まで購読する決意などしてしまうが、果たしてどうなることやら。
まあそれはともかく、ちと愛車のスバルレックス君などを駆って、神奈川〜伊豆方面までぶらり一人旅を敢行することにした。実は以前からやってみたかったんだよね。とはいうものの、滅多に車の運転なんぞしないもので、不安バリバリなんだけど、まあなんとかならぁな。お泊まりは全て車中ということで、毛布などを車に積み込む。サービスエリアや公園の駐車場で停泊するつもり。さすがに車の中なら凍死はせんでしょう。
21時半頃、準備万端整えてまず近所の友人宅に赴き、モツ鍋をいただく。いやあよく煮込まれてること。つい一杯やりたくなるが、さすがにそうもいかない。私の場合、道徳的にどうこうという問題ではなく、飲酒運転は物理的に不可能なので。と、ちょっと乗せてよーとねだられたので、手慣らしのつもりで小1時間ばかり池袋周辺をぶらつく。
仕切り直して23時頃に再出発。山手通りから目白通りに入り、環七に出ようとするが、見慣れぬ光景が続いたため、いきなり道を違えたかと不安になる。うろ覚えのうえ夜だから余計判らない。そうこうしているうちにやっと豊玉陸橋が見えてきたので、とりあえず一安心。と思ったのも束の間、環七に乗り損ねて、変な裏通りに入ってしまう。行けども行けどもいっこうに名だたる通りに出られず、仕方がないのでコンビニで道を尋ねる。なんとかなってもう一安心。おにいさんありがとう。
環七から1号線に入ると、後は全くなんにもなく、順調この上なし。せいぜい、制限速度で走っている私を他の車がびゅんびゅん追い抜いてくぐらいである。なんであんなに急いでんだろーね。『狭いニッポンそんなに急ぐとあの世行き』って言葉を知らないのだろうか。不思議不思議。私の方は、深夜の文化放送なんぞ聴きながらのんきに車を走らせる。が、小田原が近づいてそろそろ135号線への分岐点だなぁとなってくると、またも道を間違えたかと不安になる。コンビニや道端でマップを見直すこと数回。どうも間違ってなかったようで、無事135号線に入る。コンビニで買ったコーヒーとたけのこの里をつまみながら、夜中のドライブを楽しむ。真っ暗でカーブ多くて、結構怖かったけどね。たけのこの里のあまりのうまさに気づき、それ以来病み付きとなる。
今夜の宿泊地は、小田原の南西、神奈川県真鶴半島の先端にある町営駐車場。やっとのことで半島の入り口にご到着である。ところが、今度はほんとに道を間違えてしまい、半島を通り過ぎてしまった。ちょっと行き過ぎちゃった程度だったんで、すぐ矯正はきいたが。うりうり戻って半島に入って岬を目指すが、またしても間違える。しかも一度正しい道に進んでおきながら、わざわざ逆戻りするという間の抜けた話である。まあ、よくあることではある。深夜の真鶴商店街と山道を抜けて半島先端部に出ると、結構な駐車場が。駐めようかと思ったが、どうもレストハウスの駐車場らしい。よく見ると『釣りの方は○×駐車場にお駐めください』とある。ははあ地図に載ってるのはこっちの方かと、ちょっと道を戻る。先客が数台いた。トイレもあって、なかなか快適そうである。既に午前3時になっていたため、とっとと寝る。ちと寝づらかったが……。
1月2日（土）
ふと目が覚めると、6時。釣りの方々はとっくの昔に動き出していたが、あたしゃ単なる観光客なので、もうちと寝ることに決定。でも、結局7時に起きてしまう。まあ、日が昇っちゃってるから、明るくて寝てらんないけどね。車もぶおんぶおんとうるさいし。まあ旅先は基本的に早起きなので、ばうっと起きて三ッ石とやらに出てみる。海上に巨石が3つ突き出しているというもので、その向こうから昇る朝日が実に見事であると聞いていたが、確かに素晴らしい日の出でありました。やはり早起きは三文の得である。休憩所にビールが置いてあったんでつい一杯、などという考えが頭をよぎるが、おクルマであることを思い出し、危ういところで難を逃れる。
で、いつものように海岸線ぎりぎりまで磯辺を侵食している時、地面と間違えて浮き草に足を突っ込んでしまう。ふぬぐわぁと慌てて岩に上がるが、時すでに遅く、靴の中ががぼがぼになってしまった。特に左足。泣きながら靴と靴下を絞り、とりあえず靴だけ履いて靴下をぷらぷらさせつつ更にふらふらする。しばらく散策した後、お腹も空いたので車に戻り、出発することにする。
さて今日はどうしようかなーと考えて、湯本にでも行ってみるかととりあえず135号線をめざす。靴下が2足しかないので、今後のことを考えてダッシュボードの上に置いて乾かすことにする。ラジオではちょうど箱根駅伝が始まっており、いやあお正月だねえとのんきに車を走らせる。サボテンランドとやらが見えてきたが、とくに寄るつもりもなかったので、無視することに決定。その先の緩やかな上りカーブを走行中、靴下にちゃんと陽が当たってないことに気がつき、ちょちょっと位置を直していると……
どんぐぅっ
という鈍い音と衝撃があって体が投げ出されると共にダッシュボード上のたけのこの里が飛び散り、車が動かなくなる。一瞬茫然としてしまったが、はっと気を取り直してよく見れば、なんと石垣に突っ込んでいる。慌ててエンジンをかけ直そうとするが、ぶるぶるうなるばかりで、いっこうにかかってくれない。トランクを開け、後部バンパーに手をかけてちょいとでも動かそうとするが、思った通りびくともしない。怒りに任せてトランクをばむぅっと叩き閉めるが、取り乱してる場合じゃないでしょとエンジンの再始動に取り組むことにする。
そうこうしているうちになんかの拍子にエンジンがかかったので、とりあえずバックして石垣から車を引っこ抜く。前に回って見てみれば、左前部がタイヤも含めて見事につぶれている。と言うより、えぐられていると言ったほうがいいぐらいではあったが。もう一度エンジンをかけて前進を試みるが、とうとうキーがロックされてしまい、もう絶望的な状況になる。
仕方がないので、近くの公衆電話からまずJAFを呼ぶ。と、移動にはある程度お金かかりますよと言う。まあそれはいいとして、まず事故処理をやってくださいと言うので、持ち主と相談しますということで、一旦電話を切る。続いてうちに電話してあれこれ説明した後、今度は警察に連絡する。近所のバス停で待つこと数十分、やっとパトカーが来る。ぶつかった石垣の家に人の反応がないので不思議に思っていたのだが、どうやら空き家だったらしい。石垣もほぼ無傷だし、今回の事故は完全に自爆オンリーということでした。不幸中の幸いってのはこういう事なんだろーね。
ともかく、レッカー車で運んでもらい、車はそのレッカー業者さんが預かって処分してくれることになった。そういう仕事もやってるらしい。あとで見積もりとって連絡しますということで、名刺をもらう。ついでに真鶴駅まで送ってくれて、駅前じゃキマリ悪いでしょうからちょっと脇で降りますかと訊かれたが、いやいいですと堂々と駅前ロータリーで降ろしてもらうことにする。身の回りのものはなんとかバッグに詰め込んだが、ふとんはそのまま。取りに来るまたは送ってもらうまでに、腐ってなけりゃいいけど。
で……おくるま一人旅がはからずも10時間で挫折してしまったわけであるが、せっかくここまで来たので、とりあえず小田原見物でもすることにする。まだ昼前だしね。てんで小田原につき、さっそく小田原城址公園の動物園に行く。相変わらずここのおさるはいい。続いて天守閣で日本刀を見る。ほとんど『トランペットが欲しい黒人少年』状態であった。やはり日本刀は最高である。実に落ち着く。続いて市街に出て、どっかでお昼にするかと適当なところを探しまわるが、さっぱりいいところがない。観光客向けのぼりぼり食堂はやだし、マックてぇのもなんだし。考えた末、箱根でひとっ風呂浴びてから再度考えようということに決定する。箱根登山鉄道などに乗るのは何年ぶりであろうか、たぶん20年近くではあるまいかと、適当に感慨に浸る。ほんとは車で来るはずだったんだがなあと、後悔と自責の念にも浸ってしまったが。
箱根に着いて温泉銭湯を探すが、これがまたみつからない。しかも荷物全部持ってるうえにお腹がすいているので、惰性でさまよう始末。仕方がないので、駅前の観光案内所で訊いてみると、あっさり教えてくれて、地図までくれた。がびん。初めっからこうすりゃよかったっす。文字どおりなんとか銭湯に辿り着き、ぷふぅっとお湯につかる。やっぱり疲れたときの温泉は格別であるなあとへろへろしていると、かなりいい筋肉のお兄さんが入ってくる。どうも箱根駅伝の選手らしい。そういや、確かに駅前辺りにいたわ、こんな人達。中継車みたいなのも停まってたし。なるほどね。
風呂上がりにどこかで一杯やりつつメシにすっかと画策するが、どこもいっぱい。そりゃそーだ。正月三が日の箱根なんて、真夏の伊豆海岸や春の房総半島みたいなもんである。こんな時間にのこのこ出てって、空いてるわけがない。やむなくビールだけ買って、小田原に戻ろうとする。と、駅の売店でこらまたおいしそうなちくわを売っている。よくよく考えてみれば、この辺の名物ではないか。早速買い求めて、きゅいっといく。かなりイケたので御満悦。
登山鉄道の中で今後の身の振り方を考えたが、もう結構いい時間なので、おうちに帰ることにした。小田急で新宿まで帰るのは相変わらずバカ長く、寝過ぎて頭痛がしてきたのだが、帰り着く頃にはすっかり忘れていた。と、おじさん一家が遊びに来ており、わしの事故報告とおじさん及び父上の若き日の『武勇伝』がサカナにされていた。とりあえず、まあケガもなかったし、壊れたのが車だけだったんで、最低限の被害で済んでよかったねえ、と。
今は忙しいのでダメだが、ヒマになったら（ついでに気が向いたら）車買って、もう一度真鶴に行って同じコースを走り、雪辱を果たす予定である。また同じとこで事故ったりしてね。(笑)
その後、レックス君の廃車が決定したので、お父上と共にレッカー業者さんのとこに行く。ところが、道が激烈に混んでいて、着いたの2時ごろでした。ただでさえシーズンだというのに、どうも箱根に雪が降ったとかで、交通規制かなんかやってたらしい。
廃車手続きをするが、うちの保険には自爆保障があったらしく、どんな感じか調べてくれることになった。その結果、なんと40万もいただけた。中古買えちゃうよな、これ。まあ、そのお金は他に回すとしましょう。次の車の費用は全額わしが出すって。
今度はクリープ現象のある軽にしようっと……。
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